53.全体


53.全体

男は、大きな問題を抱えていた。
A男はその能力を評価され、密かに人類救済の任務をまかされていた。

量子コンピューターの計算上では、このままでは人類は多くの人が不幸になるだけでなく、滅亡してしまう可能性すら出ていたからだ。

それらを確実に避ける方法は、既に出ていた。
しかもその方法を使えば、それらの問題が解決されるだけでなく、莫大な利益も生じるといえた。

であるなら、一見すると何の問題はないようにみえる。
それでもA男は、苦悩していた。

「もちろんこの方法を使っても、証拠は何も残らない。多くの人が救われるだけでなく、長期的視野からすれば、人類の滅亡さえも防ぐことができるなら、何ら問題はないのではないか?」

A男は自分に言い聞かせるように、一人呟いた。
逆に言えば、これを行わななければ多くの人の命が奪われる。
それに、僅かな人間だけが知るこの極秘任務の許可は既に出ている。

この方法を使えば、人類の移動を制限できることで環境への負荷を緩やかに出来、なおかつ意識を変えることも出来た。
爆発的な状態になっている人口増加もある程度食い止めることができる。
ただし、弱い人間は犠牲になってしまうのだ。

ここでA男は考えさせられるのだ。

「人の命を天秤にかけることはできない。ましてや弱い人間だけとは、許し難いではないか」

それでもA男の悩みは、簡単に解決できる問題ではなかった。
なぜなら、A男がやらなくとも他の誰かがやることは分かっていたからだ。

既に解決方法があるのだから、それを覆せるものはなかった。
当然、公開して多くの人の意見を聞いた上で行うことが望ましいといえた。
もちろんかなりの反対も予測できる。
それでも、これしかないと理解できた時、実行に移せるかもしれない。

とはいっても、それでは遅すぎるのだ。
量子コンピューターでは、既にタイムリミットの期限は出て、刻一刻と近づいていたからだ。

結局、A男は決めることは出来なかった。
それでも「ウィルスの拡散」は他の者により実行されたのだった。

補足

科学の発展は、多くの人にとって喜ばしいことだといえるだろう。
一般的に出回っていない極秘情報を含めると、今や想像を超えた技術が誕生している可能性もある。

知らない事は、気づくことすら出来ないかもしれない。
超えた技術でないにしても、仮に潜水艦のミサイルがプレートへ打ち込まれたとして、それが国の極秘任務だったとしたら、民間人には知る由もないといえるだろう。
ある程度予想できたとしても、確証が得ない以上陰謀論として簡単にもみ消されてしまうことも考えられる。

数値で割り切れるものではないとしても、多くの人が関わる場合、全体としての効率を考えるのかもしれない。
情報が溢れかえる中で全てを知ることは無理だとしても、多くの人が関わる重要なことだから知ることができると思い込むのは、大きな間違いだといえるだろう。パニックなるなどの理由で隠されているものがないとは言い切れない。

とはいえ緊急性が高いところでは、全体の意見をまとめている時間などないかもしれないし、多数の専門的知識が乏しい意見が正しいとは限らない。
それでも、知らないところで全体の幸福のために、少数の犠牲を選択するのは許されるのだろうか?
「知らないほうが幸せな場合もある」といってしまえば別だが..

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