73.存在


73.存在

士は、遂に不老不死の薬を完成した。
それは酸素と混ぜ合わせ、吸い込むだけという手軽さだった。

最初の治験として、密かに応募していたA子が試されることになった。

A子がそれを吸い込むと、あっという間に不老不死の身体を得ることができた。
ところがその直後、博士は驚きの声をあげた。
「何!まさか、そんな事が起こるはずがない」と言って、博士は事切れた。

思わぬ事態が起こったのだ。

それは、使用した薬が、なぜか一度の使用により変化したのだった。
しかもその変化は、真逆の効果が生じたのだ。
つまり一瞬で死んでしまう効果だった。

その薬は空気に紛れ込み、あっという間に世界中に広がってしまった。
そして世界中の人間が息絶えた。

A子一人を除いて。

A子は一人になってしまった。
気が狂いそうになり、死にたいと思った。

ところが、薬の効果で不老不死になってしまったため、死ねなかった。

A子には、生きるしか選択肢が残されていなかった。
時には残された芸術を鑑賞しながら
「私が見ているから、この芸術には、まだ存在価値はあるわ。でも私は、どうなのかしら?」

一人になってしまったA子は、自分自身の存在価値を疑いはじめていた。
自分以外、誰も存在しない世界で、何の意味があるというのか?

A子は、もはや自分には存在価値は無いに等しいと思っていた。

そんなA子の虚しさをよそに、どこからともなく声がした。
「大丈夫?聞こえてない?過去に干渉したら、パラドックスになって、世界は崩壊してしまうからね。」
「大丈夫だよ。時間軸が違うから、過去にも未来にも干渉したくともできない。出来るのは、観るだけだよ」
「そっか。それで安心した」
「それより、このドキュメンタリー面白いね」
「そうだね」

それは、未来からの声だった。
A子は、未来の他の星から娯楽として鑑賞されていたのだった。

未来の異星人は、声を合わせて言った。
「この地球人、面白いね。十分、存在価値があるよね」

補足

量子力学では「この世のものは、見るまでは存在しない」といった素粒子の振る舞いが記述されているようだ。
であるなら、誰も見ることがなければ、存在しないに等しいということになるのだろうか?

量子力学でないにしても、例えば芸術については、見る人がいない状態で、それに価値があるといえるのだろうか?といった疑問が残る。
そう考えると、人間やそれ以外全てを含めたものにも、当てはまるといえるだろう。

だとすれば、仮にどこか遠くで見られていた場合、どうなるのだろうか?
当然ながら、見られている側が気づいていない場合もある。
「何のため?」という観点からいえば、それには価値があるといえる。

「それが誰にも知られず、そのままでも価値があるのか?」という点は、また別の問題になるといえるだろう。
全てを見通す絶対的なものがあれば別だが、それ自体が誰にも知られていなければ..

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