76.正体


76.正体

博士は、目の前に置かれたりんごを眺めていた。
手に取り、実際にかじってみると、美味しいりんごの味がした。

A博士は、呟いた。
「ふむふむ、なるほど。確かにりんごだ」
実はそこに有ったのは、りんごではなくみかんだった。

みかんがA博士には、りんごに見える。
見えるだけではなく、手触りも、味も含んだ五感全てがりんごなのだ。

A博士は、言った。
「成功だ」
A博士は、五感全てを変換できる装置の開発に成功し、喜びもひとしおだった。

とはいっても、これはまだ序の口だった。

A博士の本当の目的は、透明人間になることだった。
そしてそれは、その装置を使うと、いとも簡単に成功した。

A博士は言った。
「おお!これで、誰にも見られず、触れず、匂いもせず、聞こえず、気配を感じられることもない。まさに透明人間だ」

実際には、A博士はそこにいた。
それにも関わらず、誰にも確認することができない。

それはまさに、これまでになかった画期的な発明といえた。

A博士によると、原理自体は簡単だったらしい。
五感の感覚を変換するだけで可能だということだった。

A博士は言った。
「さて、これを実用化して、世に出すとするか」
その声は、誰にも聞こえなかった。

するとその後、問題が起きた。

A博士「あれ?」
元に戻る機能が、働かないのだ。
しかも、透明化する機能も使えなくなっていた。

「さっきまでは、正常に動いていたのに、なぜだ?」

A博士は、さほど慌てることなく「まぁ、いいか」と、装置の修理に取り掛かった。
けれども、一向に直る様子はなかった。

「困ったものだ」A博士は、文字を使い助手にメッセージを送り、共同であたったが、それでも直らなかった。
A博士は言った。
「このままでも生活できないことはないが、何かと不便だな」
A博士の呑気な考えは、次の瞬間消え去ることになった。

部屋に屈強な男達が入ってきて「逮捕する」と言われ、拘束されてしまったのだ。
博士は透明の状態を利用して逃げようとした。
しかし相手もそれは予想していたらしく、助手を人質にとられてしまい「ここだろう」という想像で場所を特定され捕まってしまった。

牢獄に投獄されてから聞いた話だと、どこから情報がもれたのか分からないが、透明になって戻れなくなったことが、国にとって危険分子だと認識されたらしい。
機密情報が取られ放題になってしまうからだということだった。

A博士は、透明化が解除される装置が開発されるまで、拘束されることになった。
ところが、その解除装置が開発されることはなかった。
しかも世間ではA博士は事故で死んだことになっていたため、誰との接触も禁じられたまま処刑されることになった。

A博士は、死ぬ瞬間思った。
「このまま、誰にも認識されないまま、人生が終わってしまう。
結局、私とは一体何だろう。
私の正体とは、実際には分からないものだということではないか?」

A博士は、五感のどれかで感じてはじめて存在できることを認識したのだった。

補足

何も感じないものがあるとしたら、どうやって存在を確認できるのだろうか?
目に見えない物質を顕微鏡で眺めてみるにしても、視覚が必要だ。
銀河の大きさを計測できるように、計算と想像力を駆使すれば、確認できるのだろうか?
そうでなければ殆どは「錯覚だった」ということで終わってしまうのだろう..
※当ブログで取り扱う物語はフィクションです。実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。

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