92.神話


92.神話

男は、不治の病だと診断された。

現代の科学では治すことはできず、医者によると、このままでは九十九%の確率で死んでしまうとの事だった。

幸いA男は資産家だったため、財力には事欠かなかった。

その力を使い、A男は最後に残された手段である「冷凍睡眠(コールドスリープ)」に懸けてみることにした。

目覚めた後、知らない人間だけとならないよう、万全を期しA男は眠りについた。

「A男様、遂に治療薬が出来ました」
起こされた時、A男の眠りから既に百年が経過していた。

A男は個室に移され病気は完治し、外の世界を眺めて周ることにした。

その際、付添い人に「驚かないでください」と言われていた。
A男にとっては未来の世界である。どこまで変わっているのかワクワクしていた。

するとそこは、A男の想像を遥かに上回っていた。

その世界は未来の世界というよりも、おとぎ話の世界だった。
それはまるで、A男が子供の頃に読んだ神話の世界だった。
頭が牛の人間がいた。
いやそれは身体が人間の牛かもしれなかった。

それだけではない、羽の生えた人間もいた。
そこは、進歩した遺伝子工学により、様々な生物が合成された世界だったのだ。

それらを見たA男は、専属で付いているリハビリスタッフに、素朴な疑問を質問した。
「この元は、人間と動物どっちなのかね?」

スタッフは、答えた。
「はい。それはここで答えられる内容ではないので、戻った後に博士から話があります」

A男は一通り未来の世界を見学後、施設に戻った。

すると、博士は言いにくそうに説明をはじめた。
「A男さんの疑問に答えましょう。まずは、ショックを受けないでください。心構えはいいですか?」

A男は言った。
「はい。冷凍睡眠に入る段階で、覚悟は決めていたので大丈夫です。
元々は死ぬはずの人間だったのですから。
どんな事でも受け入れる準備はあります」

それを聞いた博士は、安心した様子で説明をはじめた。
「実は、人間は既に滅亡しました。残っているのは、あなただけです」

A男は覚悟を決めていた。
それでも驚きを隠せなかった。
「まさか、そんな..しかしあなたは人間に見える..」

博士は答えた。
「はい。それはあなたを驚かせないために、スタッフを含めあなたの周りにいる全員が、人間の皮をかぶっているだけです」

A男は言った。
「そうだったんですか。でもなぜ、そんな事になったのですか?」

博士は説明を続けた。
「そうですね。A男さんが生きておられたあの時代は、倫理問題がありまして、人間へのテストは最後に行われていました。覚えておられますか?」

A男は言った。
「はい。それは記憶にあります」

博士は言った。
「要点だけ掻い摘んでお話します。
研究では、まずネズミを対象に行われていたのですが、その脳の遺伝子組み換えで、事の発端はおきたのです。
それは人間を遥かに上回る知能を持ったということでした。

まずそのネズミは、人間に分からないように、合成をはじめていったのです。
人間が気づいたときには、既に手遅れでした」

A男は驚きながら言った。
「なるほど。そうだったのですね。
では私が見てきたものは、元は人間ではなく、動物や昆虫だったということですね」

博士は答えた。
「お察しのとおりです。全てそうです」

それを聞いたA男は質問した。
「では私は、これからどうなるのですか?」

博士は答えた。
「言いにくいのですが、あなたには次のどちらかを選んでもらわなければなりません」

A男は質問した。
「何を選ぶのですか?」
博士は答えた。
「あなたは今や貴重な種族です。
つまりそれは、実験に協力してもらうか?あるいは今いる種族達に見学をさせるか?のどちらかです」

A男はわき出る感情を抑えきれない様子で言った。
「それは実験材料になるか、見世物になるかを選べということですか?冗談じゃない!」

それを聞いた博士は、冷静な口調で言った。
「あなたには、選択肢があるだけまだマシです。
選択肢があるということは、あなたのいた世界で重要度の高かった自由意思を尊重しているということになるのですから。
私達の先祖はその選択肢すらなかった..
それはお分かりいただけるかと思います」

それを聞いたA男は「だが、しかし..」と言ったまま、返す言葉がなかった。

補足

遺伝子の書き換えは、既に簡単にできる方法が出ている。
一昔前では、夢物語だった事も、今や現実として考え議論しなければならないところまできているといえるだろう。
まさに神の領域に踏み込もうとしていることは、決して大袈裟な表現だとは言いきれなくなるところまできている。

そこでは、考え方自体の大きな変わり目に来ているといえるのかもしれない。
人間の権利を守ろうとする者さえ現れなければの話だが..

次は..93.悩み

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